研究テーマ
Bluetoothデバイスの検出履歴を用いた日常生活支援


■目次

■概要

本研究では,ユーザが携帯するBlueTooth(BT)デバイスを用いて 周辺に存在するBTデバイスを常時・継続的に検出し, その履歴を解析することでユーザ自身の日常生活の支援を目指します. BTはおおむね10m以内に近接するデバイス間の無線通信規格で, 携帯電話やPDA,ゲーム端末,PCやその周辺機器等(マウス,ヘッドセット)に爆発的に普及しつつあります. これらのデバイスの多くは人が携帯することで持ち主と共に移動するという特徴を持っています. この特徴を利用し, ユーザが携帯するBTデバイスでユーザ周辺のBTデバイスを検出して常時記録しておき, その傾向を分析することでユーザが置かれている状況を捉えようというのが本研究のアイディアです.
左図に示すように, BTデバイスは近接するデバイス同士がお互いのプロファイル情報を交換し相互認証した後で 通信を行います. 各BTデバイスはBDA(MACアドレス)と呼ばれる固有のID情報を持っており, 他のBTデバイスから接続相手を探索する信号を受け取る(Step1)と BDAを含むプロファイル情報を返信します(Step2). これは相互認証して通信を行う(Step3)ためのプロセスですので,認証されていなくても返信が得られます. この特性を利用して,ユーザが携帯するBTデバイスから定期的に探索信号を発信することにより, 各時点でユーザの周囲にあるBTデバイスのBDAの集合が得られます.

上記のようにして得られる周囲のBTデバイス情報は, 左図に示すように周辺の状況や場所,イベントの種類によって特徴が異なります. 例えば自宅やオフィスにいる場合, Wiiなどのゲーム機器,HDDレコーダ,PCなどその場所に設置された既知のBT機器のBDAが 連続して記録されます. 逆に外出して移動しているような場合には 周囲にいる人が持つ携帯BT機器が多く検出されます. 他人が多くいるような空間,例えば大きな食堂などに入った場合, そこに入った直後に多数の未知の携帯電話のBDAが得られることになります. また,電車やバスなどの公共交通機関を使用して移動している場合, 移動中は乗り合わせた人が持つ携帯電話等のBDAが継続して記録され, 駅や停留所に停車するたびにその一部が入れ替わることになります. また講義や講演会に出席している場合も出席者の携帯電話やその部屋の設備のBTデバイスが 検出されますが, 講義や講演の時間中ほとんどのBDAが入れ替わることなく検出されることになります (図をクリックすると拡大表示されます,以降同様).

○参考文献


○AirDiary: Bluetooth デバイス検出履歴を用いた半自動日記作成ツール


○参考文献

○写真参与者の情報を利用した写真の分類・ブラウジング


カメラ機能付きの携帯機器の普及で人々が写真を撮る場面が爆発的に増えており, その結果として大量の写真を簡単に整理する技術が求められています. これまでに
撮影日時や撮影場所による整理(Lifelog Viewer)撮影日時の時間的密度による整理(AlbumWeaver)被写体の画像認識結果による整理 などが提案されてきました. 本研究はそれらに加えて, 周囲にいた人や状況の観点からの写真を整理を可能にします. 概要に述べたように 観測されるBluetoothデバイス集合には周囲の人が持つ携帯機器が含まれます. 本研究は撮影時に観測されたBluetoothデバイス情報を個々のディジタル写真に関連づけることで, 被写体だけでなく写真に写っていないけれども撮影時に周囲にいた人の情報を加味した整理が可能になります. 例えば左図のように食事や風景の写真には一緒にいる人は写っていないことが多々ありますが, その写真にBluetoothデバイス検出結果を関連づけることで そのときのメンバーが携帯するBluetooth機器も一緒に関連づけられます. その情報を写真のグルーピングに利用するというのが本研究のアイディアです.

○参考文献

○Bluetooth デバイスを用いた人間関係の解析

○Bluetooth及びWiFi機器の検出履歴を用いたユーザ行動の分類

本研究では ,ユーザが日常生活において常にPDA/ノートPCを持ち歩き,周囲のBT及びWiFi機器を検出することで,イベントごとに検出履歴に異なる特徴が現れると仮定し,得られた検出履歴を分析しイベントを抽出することを目的としています.
下図はユーザが関西学院大学で一日を過ごした際の検出履歴を示し,アルファベットA~Kに対応するイベントごとに検出履歴に異なる特徴が現れています. 例えばFは講義室でゼミを行っていた区間で,BT及びWiFi検出履歴にて,複数のMACアドレスがゼミ中は連続して検出されています. また,Bに対応するイベントはユーザが車で移動している区間で,時間に比例して新規のIDが増加している傾向が見られます. このようにイベントごとに異なる特徴が現れるので,イベントの種類に応じて適切なイベント区間検出法を用意します. イベント区間検出法は.検出履歴からイベントを抽出するプログラムを指します. 例えばLS法はゼミや自室滞在といったユーザの周りにヒトが多数(少数)存在し,イベントが長時間継続しておこなわれ, かつユーザが一つの場所に滞在していたイベントを抽出するために作成され,LS法を下図が示す検出履歴に適用すると, 赤の矢印で示されている区間がイベントとして抽出されます.

イベントの種類に応じて作成したイベント区間検出法の有効性を確認するため,2010/2/1~2010/7/31の半年間の検出履歴に対しイベント区間検出法を適用しました. 下表は結果を示します. 検出数は得られた区間数を示し,一致数は検出履歴の各区間に対し開始時刻・終了時刻を指定したものと得られた区間の開始時刻・終了時刻が一致している数を示し, 過検出数は検出数から一致数を引いたものを示します. 各検出法でばらつきはありますが,一致数が検出数に対し5割程度得ることができ,検出された区間のうち2つに1つは実際のイベント区間であることがいえます.



また,検出された区間のイベント中身推定に向けて同一BDA利用を行いました. これは,ゼミや講義などのイベントに参加している人物が毎回同じであるものは, 検出されるBT機器も同じであることに注目したものです。検出された各区間において, 区間中に含まれるBT機器の集合が同じであればあるほど区間の類似性が高いといえます,下表はMLS,SSS,zokuchiといったイベントタイプが滞在に対応している検出法で得られた区間に対し同一BDA利用の処理を適用した結果を示します. 同一BDAの処理には,各区間の類似度を算出し,類似度が閾値以下,つまり類似性が高い区間の繋がりを残しCNM法によるクラスタリングを行います. CNM法はネットワークの密な部分をクラスタとして抽出する手法です. 結果,各検出法において平均正解率が85%以上と高い精度を得ることができました. これは,各クラスタにおいてイベントごとに分類できていることを示しています.




○参考文献
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